6、踊りに情熱のある若いダンサー達がプロのダンサーや指導者になる上で、もしくは”一般”の健康的な暮らしが出来るようになる上で問題になりえる、股関節・背中・膝への長期的な影響とはなんですか?
過度な可動域には、関連する各関節の周りの筋肉に正しく調和のとれたコントロールが必要で、痛みなく行うには”リハビリ”的なタイプのエクササイズを行う努力が不可欠なのです。ダンサーが良い姿勢のコントロールと耐久性を持ち合わせていることは大前提で、極限の柔軟性を痛みなく実現させつつ、骨の変形を防ぎながら関節を良い状態に維持するように時間をかけて取り組むものです。この強靭さと可動性が無ければ、長期的な腰痛と股関節痛に見舞われるダンサーが多くいます。しかし、治療は関節が不安定であるがゆえに、非常に難しいのです。
7、 安全かつ十分な可動域まで得られる効果的なストレッチはないのですか?
あります。
簡単に言ってしまうと、皆さんが取り組んでいるやり方は最も効果がでにくい危険な方法だと思っています。制限がかかっている所を無理やり押すようなやり方は、結果的に押された組織が収縮していまい、軟部組織(靭帯・被膜)の損傷の原因になる事があります。
過剰なストレッチで身体を無理やり行きたい方向に押すよりも、私はそれらのストレッチを”テスト”としてのみ利用します。そして、制限がかかっている原因を分析し、作戦を練り、細部のモビライゼーション(動かす)、個々の構造を緩める作業へと進みます。その後で同じストレッチを再度行うと、前よりも随分やり易くなっているのです。この作業中は、痛みや筋肉や靭帯損傷の危険性もなく行えます。
筋膜組織を考えながらエクササイズをする事も、損傷の危険性なく可動域を驚くほど広げる事が出来ます。過去20年間で筋膜の本質への理解は急激に深まり、フォームローラーを使って無理に筋膜を伸ばしたり深層組織マッサージをするものではないと分かりました。ここに紹介してある上半身や股関節の筋膜のモビライゼーション(動かす)は簡単に取り入れられるものですし、可動域を増す効果は絶大です。
例えば:2001年にGoogleで”筋膜”という言葉を検索したら1500件位しか出てきませんでした。今検索したら、”およそ4800万件”はざっと出てきます。私達の訓練テクニックも”時代に合わせて”更新していく事は不可欠で、最新の研究から得られる情報を最大限に活用すべきなのです。
生徒自身が自分の身体とどう付き合っていくか、流れに逆らうのではなく共感する方法を学習しなければなりません。それが出来れば、怪我の危険性をはるかに低く保ったままで、実践で使える柔軟性が手に入ります。そして私自身は、世界中で安全なダンストレーニングが行われる為に、ダンス指導者と健康の専門家達が生徒に安全な方法で訓練しているかどうかに注目しています。
8、PNFストレッチは行ってもよいですか?
いいえ。成長期の子供にはいけません。
可動域を広げる為に大人がPNFや収縮・弛緩ストレッチを効果的だと感じるのに対し、16歳以下の生徒にはこのタイプのテクニックを用いるべきでないと思います。ハムストリングと大腿四頭筋のような多くの主要な筋肉は、主要な成長期板に付着しているのです。成長期の無理なストレッチは剥離骨折(骨片が元になる骨から離れていく)を引き起こします。この手の怪我は治療がしにくく、治療の為には長期的に踊りを休まなければならなくなります。
9、ストレッチを簡単に出来る人もいれば、出来ない人もいるのは何故ですか?
生理学的にみると、我々は全員異なります。生まれつき靭帯の可動性が他の人よりもある人がいたり、そのような人は様々なポジションへ軽々と行くことが出来るでしょう。大抵の場合そのように何でも簡単に出来てしまう人ほど、靭帯の弾力が足りないのでケアが必要です。私はネット上に投稿されているビックリするようなポーズ写真を沢山見てきましたが、彼らの多くは診断されてはいませんが、エーラス・ダンロス症候群(コラーゲン繊維形成機構の異常を原因とする症候群)だという疑いがあります。もし生徒がこの症状であるならば、弱い組織を劣化させないように過剰なストレッチは避けるトレーニングをする事が大切です。
症状の分類は様々あります。しかし、指導者がそれらの違いを知っておく事は非常に重要です。
ハイパーモビリティ 関節過度可動性
関節過度可動性症候群
エーラス・ダンロン症候群
関節の可動域がある生徒達は、良い姿勢を維持する事が難しいと感じ、腰や首の筋肉が常に痛くなります。関節過度可動性症候群やエーラス。ダンロン症候群では、結合組織が影響を受ける為に膀胱や腸に問題が起きる事もあります。